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 鶏肉も牛肉も心配ということで、今注目を浴びているのが豚肉。
 日本の豚は、戦前までは90%が中ヨークシャー種で、あとの10%がバークシャー種(=黒豚)。それが、61年に、大型で発育にも繁殖にも優れたランドレース種が入って来ると、日本中の豚がランドレースに。

小平一雅  さらに、91年に豚肉の輸入が自由化されると、外国産の安い輸入豚を迎え撃つため、サシの入った霜降りの肉質を売りとする新種の豚がどんどん作られ、岩手の白金豚(ランドレース×バークシャー)、東京のTOKYO・X(北京黒豚×バークシャー×デュロック)、等、新しい銘柄豚が続々市場に。今やその数は400品種とも。
 それとともに変わったのが、トンカツです。今回は、変わりゆくトンカツにスポットを当ててみました。
本人が豚肉を食べ始めたのは明治以後のこと。7世紀末の天武天皇の『殺生禁断の詔』以来1200年間、日本人は野菜と魚だけの食生活を送ってきましたが、明治に入ると、西欧の列強と互角に戦うには兵隊の体格の向上が急務ということになり、1872年に明治天皇が初めて牛肉を食べ、それから政府要人や有識者がこぞって肉を食べ始め、国を挙げて肉食に方針転換します。

れから27年後の1899年、銀座の洋食店『煉瓦亭』が、中国から種豚が輸入されて徐々に日本に普及しつつあった豚肉を使って、ポークカツレツを売り出します。このとき同時に発明されたのが、つけ合わせの刻みキャベツ。それまで西洋料理のつけ合わせは温野菜と決まっていましたが、油っぽいカツを食べた後は口の中をさっぱりさせたいだろうということで、水けの多い西洋野菜のキャベツが使われました。このポークカツレツに刻みキャベツというモダンな組み合わせはまたたく間に東京中に広まります。

し、このとき広まったカツレツは、豚肉は薄切り。パン粉はあまりつけず、小麦粉だけで、フライパンに少しの油で炒め焼きにする、いわゆるカットレット(ウィンナーシュニッツェルとかミラノ風カツレツと同じ調理方法ですね)。ソースはウスターではなくドミグラソースで、食器も箸ではなく、ナイフとフォーク。まだまだ今のトンカツとは様相が違っていたようです。

なみに、肉食と同時期に広まった西洋食がパンです。パンは保存と携行に優れていたため、明治初年頃には薩摩・長州・水戸の軍隊が取り入れ、1874年に木村屋の木村安兵衛があんパンを開発してからは、庶民にお菓子として普及。
 また、1900年には、英国産のウスターソースが日本に入って来て、これが日本のしょう油文化と合体、独自の進化を遂げて、白いご飯とよく合う、日本式ウスターソースとして発展。
 こうして、トンカツに必要な材料が、次第に整ってゆきます。

して1929年、宮内省大膳部で西洋料理を作っていた島田信二郎が、上野御徒町に開いた洋食店『ポンチ軒』で、分厚く切った豚肉にたっぷりのパン粉をつけ、大きな丸鍋になみなみ注いだ油で揚げ、箸で食べさせる今風のトンカツを売り出します。島田は、西洋料理のカットレットに、野菜や魚をたっぷりの油で瞬時に揚げる江戸前の天ぷら技法を取り入れたわけです。
 この『ポンチ軒』スタイルのトンカツはまたたく間に上野一帯に広まり、上野は東京一のトンカツの街に。今日トンカツ御三家と言われる『蓬莱家』『本家ぽん多』『双葉』がすべて上野にあるのは、決して偶然ではありません。

うした歴史を持つトンカツは、東京オリジナルの日本料理(じゃがいもコロッケカキフライも日本だけ食べ物です)。外国人は半端に西洋風なのがイヤなのか、東京でも寿司屋や焼き鳥屋では外国人の姿を見かけても、トンカツ屋では見かけませんし、外国にもトンカツ専門店なんてまずありません(私が知る限りNYに一軒あるだけで)。日本のフライ料理は、まだまだ世界に広める余地のある料理と言えるでしょう。

ころでトンカツは昔から、ラードで揚げるものと決まっています(老舗はみんなラードです)。ラードとは豚からとった半固形の脂。融点が低いため、すぐに融けて液状になります。日本では、第二次大戦直後に、魚油入りの臭いの強い粗悪な油が「ラード」として出回ったため、年配のヒトにはイメージが悪いようですが、上等なラードは臭いがなく、揚げたては素晴らしい香りを放つもの。但し、時間が経つと衣がベタっとしてしまうのが難点。
 ラードの代わりにサラダ油やコーン油等の植物性油を使うと、軽い感じに揚がるうえ、しばらく放置しても大丈夫(惣菜売り場の豚カツはたいていこっちです)。
 植物系の油を使って、最近はやりの霜降り銘柄豚の肉を軽めに揚げる──これが、最近のトンカツの一つのトレンド。『かつくら』『かつ好』赤坂『フリッツ』といった新興店は、大筋みんなこの方向。
 老舗でラードの香りぷんぷんのトンカツを食べるか(その方がトンカツらしいと言うヒトも多いようです)、それとも新興のトンカツ店でさっぱり軽いトンカツを食べるか、貴女(マダム)はどちらですか?

椿』(TEL:03-3483-0450 世田谷区成城5-15-3)は、成城の高級住宅街の真ん中で47年前から営業をつづける一軒家トンカツ店。先代は東宝のカメラマンだったそうで、芸能界では昔から知られた名店。メニューはロースとヒレの2酒類だけ。

かつ好』(TEL:03-5421-0080 恵比寿ガーデンプレイスB2)は、静岡の名店の東京進出店。わさびで食べる「かろみかつ」を筆頭に、植物油で揚げた変わりカツを出す新興トンカツの代表格。但し、揚げるのはフライヤーでなく昔ながらの丸鍋。


赤坂『フリッツ』(TEL:03-3500-3755 永田町2-13-10プレデンシャルタワー1F)は、2003年2月にオープンした、洋食店としては東京で最もお洒落な一軒。フレンチ出身の斉藤シェフは、トンカツでもミディアムレアな感じが出せないかと研究した結果、衣や肉の切り方に工夫を凝らし、普通は180℃で揚げるトンカツを160℃でゆっくり揚げる方法を確立。ほかでは味わえないトンカツ(上図)を出します。油はコーン油と太白ゴマ油のブレンド。夜のおまかせコースが5000円と7500円。ビールよりワインが似合う洋食店です。

更新日2005年4月18日
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