トップ 今週のエンターテインメント 来週のエンターテインメント 東京コンシェルジュブログ フラウ東京コンシェルジュ
ホイチョイプロダクションズの東京コンシェルジュ
 「ブルータス」「料理王国」「Arigatt」等々、最近の雑誌で目立つのが、東京の新世代寿司店の特集。

小平一雅  これまで、寿司店の主人と言えば、一人の親方の下で10〜15年間修業し、暖簾分けさせて貰って店を持つ、というのが常道でしたが、最近東京で旨いと評判の寿司店の主人は、中野坂上『さわ田』の澤田幸治(33)のように、自分の店を持つために佐川急便の営業ドライバーを6年も務めていたり、 六本木『なかむら』の中村将宣(29)や、広尾『すし家』の北村淳(28)のように、寿司店以外での修業経験が長く、寿司はなかば独学で学んだというような、従来の寿司界の常識を覆す破格の人材が続出しています(敬称略)。
 今回は、世界で注目される日本の食文化、江戸前寿司の次代を担う、新しい才能のお話をいたしましょう。
近急増中の新世代寿司店には、いくつか共通した特徴があります。第一に、カウンターにガラス製冷蔵ケースがないこと。
 寿司店の冷蔵ケースは、終戦直後、上野にあった『常陸屋』が考案したもの。同店は、カウンターに氷を敷いたガラスケースを置き、その前に客が手を洗うための蛇口をズラリと並べ、下に横長の流しを通すスタイルを発明。そうした造りの寿司店を、若い寿司職人に経営を任せ、今で言うフランチャイズ制でどんどん作ったため、冷蔵ケースは一気に広まりました。

ラスケースは、客がネタをひと目で見渡すことができ、プレゼンテーションとしては申し分ないのですが、ネタが乾きやすく温度管理も難しいのが難点。そこで最近の新世代寿司店が使っているのが、30〜40cm角の木製のタネ箱。開店前に魚を冷蔵庫からタネ箱に移すことで、ネタの温度を旨味が出る常温に近づけることができますし、箱ごと冷蔵庫に入れておけば、必要以上に庫内で冷えるのを防ぐこともできます。握る際に下からタネ箱を取り出して蓋を開け、あらかじめ中にきれいに並べておいたネタを見せれば、それはそれで立派なプレゼンテーションにもなります。
 また、冷蔵ケースがないと、内装がすっきりして木の感触をより強く感じさせられる上、客と職人の間に遮蔽物がなくなって、職人の仕事ぶりがまる見えになり、店内にほどよい緊張感が生まれるという利点もあります。

二の特徴は、食べる度にいちいち注文するのではなく、おまかせのコースで黙っていても寿司が出て来ること。そのため、店内には一つ一つのネタの値段を書いた木札も下がっていません。
 おまかせとはいっても、客の食べっぷり見ながら握ってくれるので、無理な量を押しつけられる心配はありませんし、2貫ワンセットのお好みと違って、1貫ずつ出て来るので、ネタを幅広く食べることができ、合理的。
 こういった点で、多くの店が手本としているのが、『すきやばし次郎』です。冷蔵ケースを置かずタネ箱を使うスタイルも、おまかせのコース制も、次郎がいち早く採用し、広めたもの。若い世代の職人に強い影響を与えています。

らに新世代寿司店は、3.出前をしない。4.皿やグラスを並べた棚がない。5.主人の目がゆき届くよう、席数が極端に少ない。6.住宅用マンションの階上など、従来の常識ではあり得ない場所にある(寿司店は床を水で流して掃除するため、マンション階上の出店などありえなかったのですが、防水工事の進歩でそれが可能になりました)、7.昔の寿司職人は店にかかりきりで他の店に食べに行ったりしなかったのが、若い世代の職人は頻繁に他の店に食べに行き、勉強している(築地の魚市場で、マグロの『フジタ水産』、鯖やコハダの『上武』等、共通の仕入れ先を持っているため、お互い顔見知りなのだそうです)――等の特徴が挙げられます。

れから、自分の店の持ち方が変わってきたのも、最近の傾向。従来のような親方の店からの暖簾分けですと、親方から教わったスタイルを守ることに終始し、新しい冒険がなかなかできないものですが、古いギルド的関係に縛られない今の若い寿司職人は、若いうちから自分の店で新しい実験や冒険ができるので、たとえば、フランス料理の真空調理の技法を、魚貝を煮たり締めたりするのに使い始めた六本木『なかむら』や、従来焼き魚向けと言われていたさわら・かます・太刀魚・むつ(いずれも身質に独特の味があります)を寿司ネタに積極的に取り込んでいる西麻布『鮨真』等のように、新しい技法や材料を自分のものにしている店も、出てきています。

うした新世代寿司店ブームの中心は、雑誌でよく紹介されている『さわ田』でしょう。ここは、中野坂上の商店街でおまかせ専門、料金2万円以上という、従来の常識ではありえない店ですが、マグロの仕入れは「1週間分でエルメスのバーキンが買える」額、冷蔵庫は木製・生氷式の特注品。そうした味への徹底した求道ぶりが評判を呼び、今や予約の電話が鳴り止まぬ繁盛ぶり。但し、店内はわずか5席の狭さで、雑誌で読んだ一見の客が簡単に入れる店ではありません。中野坂上以外にお住いの貴女は、表に示した他のお店の方へどうぞ。

新世代寿司店が使っているタネ箱。特注品で、たとえば『なかむら』は桐、『あら輝』は檜製。ネタをこれに移すことで、素材の香り・味を引き出し、堅さもほぐすことができます。

すし家』(TEL:090-6934-3844渋谷区東4-6-5 ヴァ・ビル301)は、マンションの3F。玄関でインタフォンを押してロックを解除して貰って入るという特異なロケーションながら、ここに挙げた店の中でも一、二を争う旨さと仕事の正確さ。

あら輝』(TEL:03-3705-2256 世田谷区中町4-27-1上野毛リトルタウン102)も、新世代寿司店を語る上で欠かせない求道の一店。上野毛の住宅街の中にキリッとした内装。カウンター9席なので、『さわ田』よりはずっと入りやすそう。

なかむら』(TEL:03-3746-0856港区六本木7-17-16)は、新世代寿司の代表的一軒。主人の中村将宣は、日本料理出身で寿司はほぼ独学とか。が、勉強ぶりは凡百の寿司店のはるか高み。その『なかむら』が2003年から取り組んでいるのが、左上の真空調理器を使った調理。素材を真空パックしてから加熱する調理法で、フランス料理では以前から普通に使われていたもの。低温で長時間加熱しても味が外に逃げない、酢締めに使うと少量で内部まで均一に酢が通るので高い酢も使える等、数々の利点があるとの由。

鮨真』(TEL:03-5485-0031港区西麻布4-3-10西麻布ビルディングXI3F)も、住居マンションの3Fというロケーション。藁で燻したさわら、昆布締めにしたむつ、皮を焙った太刀魚といった、古い寿司店ではお目にかかれない素材に出会えます。

更新日2004年3月21日
森ビル 免責事項 J-wave