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 狩猟民族の末裔の国フランスは、180万の狩猟人口を抱えるヨーロッパ随一の狩猟大国。  狩猟シーズンは、県によっても動物によっても異なりますが、大筋、9月中旬から解禁されて、1月下旬〜2月末まで。狩猟可能な動物は約80種。

小平一雅  この季節の野生動物は、越冬のために肉に脂が乗っており、フランスでは、1年中手に入る家畜類の肉をヴォライユ、狩猟シーズンにハンターが狩る野生の鳥獣類の肉をジビエと呼んで、両者をハッキリ区別し、ジビエは、日本人にとっての鍋料理と同様、フランスの冬の食生活にごくごく自然に定着してきました。が、近年は、乱獲による個体数の激減により、禁猟となるジビエもチラホラ。今回は、そんなジビエの近況についてお話ししましょう。
然界に生きる鳥獣の肉(ジビエ)には、人間が与えた餌で育った家畜にはない、強い味と香りがあります。その風味は、肉料理の中でも最も高貴な香りだと言うヒトもいれば、飼育小屋の匂いのようで耐えられないと言うヒトもいます。シェフの間でも、ジビエはギリギリまでフザンタージュ(=熟成)させた方が旨いと言うヒトもいれば、できるだけフレッシュな方がいいと言うヒトもいます。これほど食べ手や作り手や好みが分かれる食材は他にありません。
 よく、冬場のフランス料理店で「わ〜、ジビエって初めて〜」と無邪気に騒いでいるお嬢さんを見掛けますが、そんな声を聴くと、店の側は死ぬほど緊張するもの。味を知っていて注文してくれる客はいいのですが、知らないで注文した客は、「何この匂い!」と拒絶する可能性が高いからです。

京のフランス料理店の多くは、ジビエ料理にフランスからの輸入物の食材を使っていますが、実際のところ、輸入会社は、その鳥獣がいつ狩られたものか、死後どれくらい時間が経過しているのか、正確には把握していません。また、狩られたときに銃弾で内臓がわずかでも破損していたり、あるいは、一発で仕留めることができずに死ぬ前に大暴れして肉が熱を持った鳥獣は、肉が傷むスピードが速くなりますが、そういったことも、調理してみるまで正確にはわかりません。従って、ジビエ好きのグルメにとっても、ジビエを注文するのは、一種のギャンブルと言えます。

あるジビエの中でも、肉自体の旨さと香りの強さで双璧をなすのが、『ジビエの王様』ベカス(山シギ)と、『ジビエの女王様』リエーヴル(野ウサギ)です。この2つの名前は、ぜひフランス語で覚えてください。ベカスとリエーヴルを覚えているかどうかは、大人の女の最低条件です。

カスは、ヨーロッパ全域に生息するキジ科の渡り鳥で、冬はフランスやスペインに渡って過ごします。よく飛ぶ鳥なので、肉は真っ赤(野生のよく動く鳥獣ほど、肉は赤いものです)。肉の味は繊細で、サンマやアンチョビのような魚臭さがあるのが特徴。一匹まるごと脳味噌から内臓まで、まとめてロティ(=ロースト)して、サルミと呼ばれる血のソースを合わせるのが一般的です。
 サルミとは、肉と同じ鳥獣から採ったフォン(出汁)に、その鳥獣の血(足りなければ豚の血で代用)を加えたソースで、ベカスに限らず、コルヴェール(野ガモ)、ペルドロー(山ウズラ)、フザン(キジ)、ピジョン・ラミエ(山バト)といった鳥類のジビエは、大筋これが合うとされています。

年、ベカスは乱獲のため個体数が激減。フランスではとうとう禁猟に。おかげで値段が跳ね上がり、貴重品扱いされるようになりました。フランスでも日本でも、今日食べられているベカスはイギリスで捕獲されたものだそうです。
 ベカスに比べると、ペルドロー(山ウズラ)やフザン(キジ)は比較的値段は安め。飛ばない鳥なので、肉の色は白く、味にも比較的クセがありません。どちらも、サルミ・ソースも合いますが、キャベツと一緒に炒め煮にするのが、より一般的です。

エーヴル(野ウサギ)は、肉にハンパでない臭みがあり、もしかしたら日本人が苦手なジビエNo.1かも。但し、その背肉(ラヴル)は、繊維が密で、しっとりロティしたものは、馬肉のようなネットリ感があり、ソースともよく絡まり、肉自体の強い風味とあいまって、絶品の料理に。好きなヒトにはたまらないといいます。但し、ラヴルは1羽から2本しか取れないため、人気店の多くは予約だけで捌けてしまい、メニューに載ることは滅多にありません。内臓を抜いたリエーヴルを一羽まるごと煮込んだ料理をロワイヤル風と言いますが、前足や後ろ足をロワイヤル風にしたものはメニューにもよくあるので、まずはそちらからお試しを。
 ちなみに、リエーヴルを始め、シュヴルイユ(鹿)やサングリエ(猪)などの4本足の獣類は、肉自体のパワーが鳥類よりも強いため、サルミではなく、香辛料がきいた赤ワインのソース、ポワヴラードが合うとされています。

2 003年のジビエの輸入状況は、10月中旬からコルヴェールとペルドローが入り、少し遅れてリエーヴル、フザン、そして11月上旬からベカスが入って来ました。ユーロ高の影響で、値段は例年より若干高めとか。
 2002年は、リエーヴルは1月の1週目には終わってしまったとか。あまりもたもたせず、イラストで紹介したフランス料理店にお早めに足をお運びください。

総武線平井駅前の商店街の端で1993年から営業をつづける『レストラン・コバヤシ』(TEL:03-3619-3910 江戸川区平井5-9-4)は、ジビエの扱いでは東京屈指の腕を持つ小林邦光シェフの店。この場所にこんな本格フレンチがあろうとは!

東京一安くておいしいとあらゆるグルメ本が絶賛する谷昇シェフの『ル・マンジュ・トゥー』(TEL:03-3268-5911 新宿区納戸町22)。コースは何と3800円。ジビエが食べたければ、おまかせの8000円のコースで。但し、予約は1ケ月先まで満杯です。

ベカス(山シギ)は、体調30〜40cmの比較的小型の野鳥。頭蓋骨まで真二つに割って、まるごと1匹ロティし、クチバシまで皿に盛るのが一般的。ベカスの醍醐味は内臓!カリカリに焼いた頭から脳味噌をすすって食べるのをお忘れなく。

五本木のざっかけない商店街の端に下がったフランス国旗が目印の『ボンシュマン』(TEL:03-3791-3900 目黒区五本木2-40-5)。内装や店構えが『コバヤシ』とソックリなのは、花澤シェフが小林シェフと兄弟弟子で、店舗デザイナーが同じだから。

丸の内のオフィス街のど真ん中に誕生した『ブラッスリー・オザミ』(TEL:03-6212-1566 千代田区丸の内3-3-1 新東京ビル1F)は、銀座『オザミデヴァン』の4番目の支店。オープンエアのいかにもパリっぽい店。ジビエも豊富です。

イラストのほか、グルース(雷鳥)、マルカッソン(仔イノシシ)、シュヴルイユ(鹿)などが一般的なジビエ。ジビエを7〜10日ほど熟成させることをフザンタージュと言いますが、これは、フザン(キジ)の肉はしばらく寝かせた方がトウモロコシに似た独特の香りが出て旨くなることが語源。昔のシェフは、野鳥の腹が紫色になるくらいまで熟成させたそうですが、最近はレストラン・コバヤシの小林邦光シェフを筆頭に、ジビエは仕入れたらすぐに出した方が旨いのでは、と考えるシェフも増えています。
更新日2003年11月23日
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