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 揚子江の河口の街、上海は、世界で最も発展が著しい町。今や全世界のビル建設用クレーンの2割がこの街に集まっていると言われ、「第二のNY」と呼ばれるほど、高層ビルが建ち並んでいます。その上海から、揚子江を西に60キロさかのぼったところにある湖、陽澄湖で獲れる淡水の蟹が、中国の秋の味覚の代表、上海蟹です。

小平一雅  上海蟹は他の湖でも獲れますが、おいしいのは何と言っても陽澄湖産。ブルーのタグがついていて、値段は他より1割高。最高のブランドとされています。秋の上海では街角に蟹が満載されたカゴが並び、店の人が一匹づつヒモをかけてゆく作業は、街の風物詩になっています。上海からの便りでは、2003年の上海蟹の出来はマズマズだとか。今回は、中国の美食、上海蟹のお話です。
京の中華料理は、中国の様々な地方の料理が混ざって一種のフュージョン料理と化していますが、本場の中華は地方によって特色が異なり、北の北京・南の広東・東の上海・西の四川の4つに別れると言われています。
  この4つを分ける最大の目安が、中国大陸の真ん中を流れる揚子江(=長江)です。揚子江を境に大陸を南北に分けた場合、南は米作圏。広東では米の収穫が年に3度もあり、米が主食。一方、北側は小麦粉圏。従って、北京周辺では、麺や餃子などの小麦粉料理が主食(ついでに言うと、同じ中華鍋でも片手鍋は北。両手鍋が南のものだそうです)。また、揚子江を上流・下流で分けると、西の上流部が、麻婆豆腐等の辛い料理でおなじみの四川。東の下流部が上海、ということになります。

海の緯度は、鹿児島とほぼ同じ(台湾よりずっと日本に近いんです)。主な食材は、鯉、ナマズ、ウナギ、スッポンなどの川魚と、東シナ海の豊富な魚介。それを、醤油や味噌を使って甘めに煮込んだ、煮込み料理(例えば、フカヒレの姿煮など)が主流です。本来、煮込み料理は味が濃くなりがちですが、上海のそれは薄味。但し、広東が素材を油通しをしないのに比べ、上海は油をよく使うので、いくぶんしっかり味。「繊細な広東」に対し「豪快な上海」と言うこともできます。

んな上海料理の秋を代表する味覚が、揚子江の河口周辺の湖に生息する淡水の蟹、上海蟹です。中国名は大閘蟹(ダマチャアシェ)。学名は中国モズクガニ。最も一般的な食べ方は、まるごと蒸して、醤油・黒酢・砂糖・生姜をまぜたタレで食べるシンプルな方法。普通のカニに比べて、味に深みがあり、泥臭い感じ。臭いがきつく、指につくと洗ってもなかなか落ちないほど。しかし、通のヒトは、その臭いがたまらないと言います。

本に輸入されるようになったのは1975年頃から(それ以前は、日本のグルメは、香港まで食べに出かけていたそうです)。上海蟹を1975年から輸入している中華街の商社、新光貿易の温耀東サンから伺ったお話では、上海蟹は組織が痛むのが早く、生きているうちに蒸さないと、あの赤い色にはならないのだそうです。そのため、日本で食べるには、生きたままの輸入・通関が必須。ただカゴに入れただけで運ぶと、中で動き回って身が痩せてしまったり、共食いを始めたりしてしまうので、必ず1ハイづつヒモで十文字に縛らなければなりません。輸送にはスピードが要求されるため、飛行機でしか運べず、そのため中華街では以前は飛行機ガニとも呼ばれていたとか。

海蟹は、普通6月に脱皮。水が冷たくなる9月下旬から身が締まり始め、風味が増します。9〜10月は産卵前で卵を身体に持ったメスがおいしく、11月になるとメスが味が落ちる代わりに、ゼラチン質の精巣を持つオスがおいしくなり(11月最初の1週間は、メスオス両方がおいしい貴重な1週間です)、12月上旬まで味を保ちます。また、生きたまま老酒に漬け、7〜10日ほど漬け置いて食べる、いわゆる酔っぱらい蟹ですと、年を越して2月くらいまでは味が持ちます。
 値段は大きさにもよりますが、1ハイ2000〜3500円。3年物と4年物とがあり、当然、大きな4年物の方が高価。昔は天然産しかなかったそうですが、近年は湖で養殖されるようになり、いくぶん値は下がったそうです。

京ダックが北京料理店でなくても食べられるように、晩秋の東京では、上海蟹は上海料理店でなくても食べられます。が、ここは一つ、表の上海料理店で食べてみてください。ことに、前述の「酔っぱらい蟹」は、生のまま漬けるので寄生虫とかの恐れがあり、一流店で食べるに限ります。
 昔から上海蟹を出している維新虎やニューオータニ16階のTaikan En等では、蟹が生きていることを証明するため、蒸す前の縛った状態で客の前に持ってきて、選ばせてもくれます。

なみに漢方では、カニは身体を冷やすと考えられているおり、上海蟹を食べた後は、ショウガ湯を飲むのが一般的。また、上海蟹と牡蠣は旬が同じですが、食べ合わせが最悪とされ、中国のヒトは蟹と牡蠣を一緒には食べません。ご注意ください。

上は店先で売っている状態、下はまるごと蒸した状態の上海蟹。日本で売られている上海蟹は大半が養殖物ですが、鮎と違って、養殖物と天然物は区別がつきません。食べるときは、日本人はテーブルを汚さないようにきれいに食べますが、中国人は、手で甲羅と胴体を引き離し、身はタテ半分に割り、脚は全部引き抜いて、豪快に食べ散らかします。また、日本人はメスを好みますが、中国人はオスが好み。選ぶときは比重の重い(それだけ身の詰まった)ものを選ぶのがコツだそうです

『維新虎』は、2000年に100周年を迎えた、肉饅を世に広めた超老舗。銀座・赤坂・新宿などに8店舗を展開。上海蟹は100g1796円の計り売り。老酒漬けの「酔っぱらい蟹」は1ハイ4〜5000円。最後に生姜湯までちゃんと出してくれます。
ホテルニューオータニ本館16階『Taikan En』は、1964年のホテルの開業と同時にスタートした上海料理の老舗『大観苑』が、99年にリニューアルしたもの。上海蟹フェアは11月30日まで実施。姿蒸しMサイズで4000円です。

横浜中華街では2003年も三和樓・保昌(本館&新館)・萬珍樓點心舗・頂好・翠香園・六鳳居・牡丹園・明揚・菜香(新館&市場通り店)・珠江飯店・萬来亭の13店が上海蟹フェアを開催。上図は関帝廟通りの上海料理店『三和樓』(TEL:045-681-2321)です。

更新日2003年10月12日
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