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 昔からフグの旬は「彼岸から彼岸まで」、つまり9月20日前後から3月20日前後までと言われ、中でも味が最もおいしくなるのは、大寒の頃(1月20日からの15日間)とされています。春の産卵に向けて、オスもメスもたっぷり栄養をとって体調を整えるため、身が一気に肥えるからです。オスの精巣である白子も、この時季が最高。

小平一雅  但し、フグの中で最も美味しく最も高価な天然物のトラフグは、豊漁と言われた2000年冬シーズンも、値が下がらないばかりか、バブル以来最高値をつけたとか。フグは永遠に庶民には手の届かない食材なのでしょうか。
 今回は冬の味覚の王者、フグの実態についてお話をいたしましょう。
グ科の魚は世界に約100種生息していますが、フグを食べるのは世界で日本人だけ。日本人とフグのつき合いは古く、縄文時代の貝塚からも骨が発見されていると言います。
が、ご承知の通り、フグには毒がつきもの。フグの毒は正式にはテトロドトキシンと言い、毒性は青酸カリの千倍(縄文時代以来、何人の日本人が命を落としたことでしょう)。最も食用に適したトラフグでさえ、眼球、卵巣、肝臓、心臓、えら等、身体中に毒を持ち、調理の際はそれらをすべて除去しなければなりません。

グの毒で誰もが思い出すのは、八代目・坂東三津五郎(昨年1月に十代目を襲名した八十郎のおじいちゃま)。祇園の料亭で、本当は客に出してはいけない肝を座興に出させ(素材や調理次第では、食べられないこともないそうですが)、舞妓サンが食べなかった分も含めて4人前を食べたために毒が致死量を越え、ポックリ逝ってしまったそうです。
 ちなみに、フグの取り扱いに関する条例が日本一厳しいのは東京都。東京では、調理の際に除去したフグの内臓は、ステンレス製の鍵付き容器にしまい、それを築地の除毒場に持ちこんで焼却し、さらに苛性ソーダで中和した上、地下に埋めることが義務づけられています。ですから東京のフグ店では、毒のある部位を出すなんてありえないこと。八代目三津五郎も、東京から外にでなければ、フグにあたることもなかったはずなのですがノ

ころで、フグはめちゃめちゃ扱いが難しい魚。釣った後は、身を落ち着けるために2〜3日は水温15度前後の水槽に入れておかなければならず、さらにしめて毒を除去した後も、肉を1〜2日置いて熟成させなければおいしくなりません(さっきまで活けすを泳いでいたフグを、さも新鮮そうに出す店は信用しないこと)。さらに養殖物だと、ある日突然お互い噛み合い始め、一夜で全滅してしまうこともあります。
 調理方法も、油で炒めたりソーズで煮込んだりしてもちっともおいしくなく、どこのフグの店でもメニューは、刺身の薄造り・鍋・煮こごり・から揚げとワンパターン。

こで基礎知識をもう一つ。歌舞伎には基本的に演出家がいません。脚本もありません。役者は、歌舞伎4百年の歴史の中で磨かれた動き・台詞を、先輩の芝居を見て会得します。しいて演出家的立場の人を挙げるなら、それは各々の演目の主役。従って主役の役者が若返ると全体のテンポがアップし、素人も見やすくなります。

れだけに、フグの店のよしあしを決めるのは、100%素材のよしあし。いいフグ店とは、いいフグの入手ルートを持つ店、と言い替えることができます。
では、いいフグとは何か?ズバリそれは天然のトラフグ。トラフグは、食感も旨味も他のフグとは歴然と違います。
同じ天然のトラフグでも、玄界難や東シナ海などの外海で獲れる外海ものと、瀬戸内海や豊後水道で獲れる内海ものでは味が異なり、外海ものは速い潮の中を泳ぐために身が締まっているのに対し、内海ものは身が柔らかい代わりに食べているエサがいいので肉に旨味がある、と言います。

、最近は外海ものも内海ものも乱獲がたたり、トラフグの漁獲量は減少の一途。おかげで、豊漁と言われた00〜01年シーズンでも、天然トラフグの値段はキロあたり2800円〜3500円(バブル絶頂期には8万円を記録したそうです)、一人が300g食べるとして、原価だけで1万円! 高級店のフグが2〜3万するのも当然と言えば当然です。
トラフグは養殖もされていますが、養殖のフグはあまり泳がないので身がプヨプヨしていて、フグ独特の締まった感じに乏しく、その分お値段も天然の3分の1。

らに、トラフグの代わりによく使われるのが、マフグ、カラスフグ、シマフグ等。一番安いサバフグに至っては、キロ当たり300円ほどで、最近雑誌でよく紹介されている、コース3〜4千円の激安ふぐ店が使っているのはたいていこれです。
フグの醍醐味は、鍋の最後に食べる、フグの旨味をすべて吸収したおじや(鍋用のフグに骨がたくさん入っているのは、ダシを出して最後のおじやをおいしくするためです)。通は「鍋は、おじやを食べるための調理過程に過ぎない」と言うほどで、おじやこそはフグのメイン・ディッシュ。そして、安いサバフグと天然トラフグの味の違いが最も如実に出るのは、刺身よりむしろおじや。その違いを知るためにも、最初はぜひ高級店で、本当にいいフグを食べてみて下さい。安いフグを食べるくらいなら、新鮮なカワハギを食べた方がよほどマシと言いますから。

れと最後に一つ。フグ店でヒレ酒を飲むとき、火がついたヒレを箸でつついて、いつまでも燃やしているヒトがいますが、煮詰まって味醂みたいになって悪酔いするのでやめるように。店のヒトに笑われてしまします。


東京のマトモなふぐ店
店名 TEL 場所/創業 コースの紹介
ふく源 3541・3105 築地/1933年 高額・要紹介
味満ん 3408・2910 六本木/1981年 コースなし(予算:¥35,000〜¥45,000)
さくら田 3585・4402 麻布十番/1971年 ¥15,000/¥23,000
かねまん 3666・3717 人形町/1880年 ¥19,000/¥23,000
あま宮 3351・1129 新宿区荒木町/1980年 ¥16,500(さし¥7,000 ちり¥7,500)
にびき 3872・6250 下谷/1851年 ¥7,000/¥16,000
ひょうたん 3631・0408 墨田区緑/1928年 ¥8,200/¥9,500
(さし¥3,900 ちり¥3,900)
玄の坊 5766・8120 西麻布/2000年 ¥5,500〜
露地やま祢 3405・0062 西麻布/2000年 ¥9,000〜


トラフグ
フグの最高峰。天然のいいものはキロ25,000〜38,000円!

カラス
トラフグに次いで高いフグ。それでも、キロ15,000〜20,000円

マフグ
キロ当たり2,000円前後。

サバフグ
安いフグ屋がよく使う毒のないフグ。キロ300円前後。

クサフグ
毒性が強く、素人が釣ってさばくと極めて危険なフグ。


天然物と養殖物を見分ける最大のポイントは尾ビレ。天然物は広い海を泳いでいるので、左のように発達しているが、養殖物は狭い活けすの中であまり泳がずに育つので、右のように尾ビレを誇らしげに干している店は、天然物が売りの証拠!


麻布十番の「さくら田」は、店の前に大きな尾ビレをズラリと干した、外海ものの天然トラフグだけを使うフグの銘店。まずはこの店で、おじやの味の違いをご賞味あれ。

築地電通裏「ふく源」(住所は表参照)は、政財界の要人が集う東京のふぐ店の最高峰。いいふぐが入らないと店を開けないこだわりぶりが有名。要紹介のため、マスコミには登場せず。

博多の日本料理店『やま弥』は、東京では銀座と西麻布に出店。安いのは、イラストの西麻布店の方で、コース¥9000から。3階には、ハワイアン・テイストのソファーラウンジHULA ULUAも合って、ラウンジだけの使用も可。

「にびき」は江戸時代から続く下町の銘店。各7000円で天然トラフグのさし・ちりを出すほか、養殖物も明記の上で各3000円で出しているので、食べ較べるにはうってつけ。

更新日2002年2月10日
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