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 昨年の歌舞伎界は、辰之助・新之助・菊之助の『三之助』の中から、新之助(おーいお茶のCMのあのヒト)が人気・実力とも頭二つ抜け出した感じ。まだ20代前半なので、与えられる役の多くが初役なのですが、その初役を舌を巻くほど上手く演じる上、声よし、顔よし、姿よし。何十年に一人の逸材と言われています。しかも彼は、やがては歌舞伎界で最も重い、団十郎の名を継ぐライオンキング。ファンは嫌でもヒートアップしています。

小平一雅  今回は、世代交代が進み、よりダイナミックになった最近の歌舞伎界にスポットを当ててみました。
舞伎を語る上で重要な基礎知識を最初に二つ。
・日本の歌舞伎役者は全員、寅さんで有名な松竹の所属です。
・その松竹所属の歌舞伎役者は、基本的には世襲制。歌舞伎役者の子供以外が主役クラスになることはまずマレ。役は、父から息子へ、代々家で受け継がれてゆきます。
 たとえば、一昨年5月、新之助が演じて評判をとった『源氏物語』の光源氏役は、おじいちゃまの海老蔵(後の11代目団十郎)が、昭和26年に演じて「海老さまブーム」を巻き起こし、戦後の歌舞伎人気復興の要因になった役。おじいちゃまが42才で演じた役を、新之助は半分の21才で演じ、同じ満員札止めを記録しました。

うした血のドラマの最大のクライマックスが、その家に伝わる芸名を受け継ぐ襲名です。松竹の発表によれば、これから2005年まで、歌舞伎界は大きな名前の襲名が目白押し。まず今年、辰之助が尾上松禄を襲名(『之助』でなくなるので、三之助は昨年限りです)、つづいて2004年に新之助が市川海老蔵に、2005年に勘九郎が中村勘三郎に、鴈治郎が坂田藤十郎になります。
 まるで旧ソ連の農業5ケ年計画みたいなこの襲名計画については、異論を唱える向きもあるようですが、観客の立場から言えば、襲名披露興行は、襲名した役者を盛り立てるために、大物役者がほんの脇役で出演したりするので、お得な感じ。会場全体の気分もハイになり、楽しいものです。

もそも、これだけ襲名が相次ぐ背景には、平成に入って、昭和の名優がバタバタ死んだことがあります。そのおかげで、松竹は、お年寄りを立てるための動きのない演目をかける必要がなくなり、若い役者を前面に立てたダイナミックな演目をかけられるようになりました。

こで基礎知識をもう一つ。歌舞伎には基本的に演出家がいません。脚本もありません。役者は、歌舞伎4百年の歴史の中で磨かれた動き・台詞を、先輩の芝居を見て会得します。しいて演出家的立場の人を挙げるなら、それは各々の演目の主役。従って主役の役者が若返ると全体のテンポがアップし、素人も見やすくなります。

して、これはお多幸に限った話ではありませんが、おでん屋サンは閉店後に、具の味の滲み出たダシをしっかり漉してズン胴に移し、火入れして一晩置き、また翌日火入れして、使いつづけます。つまり老舗のおでん屋サンのダシには開店以来の旨味の分子が含まれているのです。お多幸が銀座に店を出したのは1951年。従ってそのダシには、50年前のアミノ酸が含まれている可能性も。老舗のおでんを食べるということは、そういうことです。

の歌舞伎界を引っ張っているのは、40代〜50代の三之助の父親世代の役者たち。中でも、役者として一番旬を迎えているのが、今年47才の勘九郎です。
 歌舞伎は元々、庶民の娯楽。ストーリーは支離滅裂だわ、時代考証はいい加減だわ、ギャグだらけだわ、かなりおバカなものでした。それが、明治20年の明治天皇による天覧歌舞伎以降、おバカ部分は極力押し隠され、芸術性が前面に押し出されます。おかげで、役者の地位は向上したものの、舞台は庶民の娯楽とはかけ離れたものになってゆきました。
 が、いつの時代にも、庶民の娯楽としての歌舞伎を復活させようと抵抗する役者がいるもの。その代表が、60代で言うと猿之助。40代で言うと勘九郎です。

とえば勘九郎が渋谷でやっているコクーン歌舞伎では、休憩時間に、ロビーに出したお祭りの夜店で、若手の役者に喧嘩を起こさせ、衣裳のまま登場して仲裁するという、客の度肝を抜く趣向を見せていますし、一昨年・昨年と、隅田川の川べりに建てた平成中村座では、人力車の送り迎えつきの『お大尽席』を設け、舞台の上からお大尽席のお客様を持ち上げたりもしていました。
 その勘九郎、年令的にも今が一番脂の乗りきった男盛り。ぜひ一度、生の舞台をご覧になることをお勧めします。

ころで、東京では歌舞伎は、歌舞伎座と国立劇場で一年中見ることができます。が、同じ見るなら、歌舞伎座の方がお勧め。国立劇場は、花道の向こうが壁で空間が冷えた感じ。それに対し歌舞伎座は、花道の向こうが桟敷(劇場側面のマスで仕切られた2人席)で、役者の背景が人の顔となるので、暖かみがあります。
 ちなみに、歌舞伎座の桟敷席は、1階に20マス。2階に16マスの計36マス。椅子は掘りコタツ式で、前にテーブルがあり、酒を飲みながらの観劇が可能。1階の桟敷は、花道を役者が出入りするときライトが当たりまくるので、不倫のカレ・カノジョと行くときは要注意ですが、逆に和服でおめかしした「私を見て」状態のときは、最適。

誌によっては、初心者には、低料金で一幕だけ見物できる4階の幕見席を勧める向きもありますが、ここは舞台から遠過ぎるので、初心者には全貌がわかりません。桟敷とは言いませんが、最初から1階の一等席(14000円)でご覧になった方がよろしいかと存じます。


左上:板東三津五郎(2001年1月にすでに襲名済み。旧名・八十助)/右上:中村勘九郎(2005年に中村勘三郎襲名)/左下:尾上辰之助(2002年に尾上松禄襲名)/右下:市川新之助(2004年に市川海老蔵襲名)

花道は、役者の入退場に使う歌舞伎の名物。歌舞伎座では、花道の向こうに、2人1マスに横並びに座る桟敷席(1人16000円)が。おしぼりやポットのお茶のサービスもあるお大尽気分のシートです。

歌舞伎座2階ロビーに面した『芝居茶屋』は、歌舞伎座に行ったら必ず食べたい『くずきり』が名物の甘味処。1000円程度の折り詰め弁当も頂けます。一階桟敷席にはくずきりのお届けもしてくれます。

2月に歌舞伎座で上演されるのは、平安時代に権力闘争に巻き込まれて罪を着せられ太宰府に流された菅原道真の悲劇を描く、『菅原伝授手習鑑』。昼夜通しで全6幕を一挙上演します。出演は、仁左衛門、吉右衛門、団十郎、玉三郎など。

『吉兆・歌舞伎座店』
(TEL/3542-2450)は、歌舞伎座内2階、西側の奥。先代、湯木貞一が松竹会長と親しかった縁で、平成9年から歌舞伎座内に開店。

メニューは月変わりの松花堂弁当のみ。予約は、当日なら1階東側の吉兆専用予約カウンターで。前日までなら電話(TEL/3541-8164)で。

更新日2002年1月13日
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