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 日本には「旬」という言葉があります。本来「旬」とは、「10日間」の意。自然の恵みの野菜や魚は、おいしい盛りは10日間しかつづかない。だから、その10日のうちに食べる。たとえば魚なら、キスは6月上旬、アユは7月下旬、シンコは8月下旬。

小平一雅  食物だけではありません。春は花見、夏は花火、秋は紅葉、冬は湯治━━季節の移ろいに敏感な日本人は、昔からそうした「旬」な遊びを粋としてきました。
 そして今日、国際都市東京には、国内だけでなく、世界の「旬」が集まっています。
 年の始めの今回は、世界の「旬」にこだわる東京の1年間の生活スタイルを、歳時記風にまとめてみました。

トリュフは、夏物黒・冬物白・冬物黒(上図)の三つに大別され、夏物は風味が一段落ちると言われています。

一月(睦月)

クラシック界の1月は、なぜかヨハン・シュトラウスのウィンナーワルツのコンサートが定番(おめでたい感じだからでしょうか)。半ばまで、主要ホールはウィンナーワルツ一色になります。ことに日本では、アンコールに決まって『ラデツキー行進曲』が演奏され、聴衆がこれに手拍子を合わせるのが慣わし。新年はラデツキー行進曲の手拍子とともにスタートです。  また、フランス料理の三大美味の一つトリュフは、11月から収穫されますが、12月までは味が薄くて身も小振り。風味が増すのは1月以降。1年の食の始まりはまず黒トリュフです。 

二月(如月)

2月のフランスは、ポイヤック地方の乳飲み仔羊(母乳だけで育った生後1ケ月の仔羊。最高の美食と言われています)のシーズン。日本にも2月末から入って来ます。ワインは当然ポイヤックで。
また、正月を彼氏・彼女と迎えられなかったあなたは、二人で横浜中華街の旧正月(右図)に出かけられてはいかが? 11日夜のカウントダウンから参加すれば、正月気分がリプレイできます。


三月(弥生)

花粉の季節。花粉症のあなたは家でおとなしく。花粉に関係ないあなたは、フランス料理店に出かけて、カキをどうぞ。カキの実が豊かになって一年で一番甘くおいしくなるのは、実は3月です。


中華街の旧正月、すなわち春節祭(2月12日)は、2/11夜の関帝廟前のカウントダウンに始まり、華々しい爆竹の音とともにスタート。12日当日は、街中で「採青」というネバーエンディング・ストーリーのファルコンみたいな顔をした獅子舞いが、16日は14時から、右図のような民族衣装のパレードが、17日は、山下町公園や横浜中華学院グラウンドで、11:00〜16:30の間、民族舞踊や獅子舞いなどがくり広げられる、足掛け6日間の大イベントです。



セル・シュル・シェル(木炭の粉を吹き付けて熟成させたもの)
プリニー・サン・ピエール(別名「エッフェル塔」)
クロタン・ドゥ・シャヴィニョル(クロタンとは「馬の糞」)

四月(卯月)

 4月は何たって花見。今年は、六本木の京は花(2階の座敷の目の前が桜の木  3405・8208)、天現寺のル・バー(目の前が目黒川の桜並木  3446・8838)といった、ちょっと渋目のお店の窓からされてはいかが?
 イタリーでは、4月は空豆の季節。ペコリーノ・チーズとフラスカティと空豆、というのが最強の組合せ。イタリー人シェフの店なら必ず出してくれます。
 イギリスでは、4月はダージリンの一番茶の季節。こちらは青山一丁目界隈の紅茶店でお試しを。  フランスでは、4月は山羊がお産をして乳をいっぱい出すので、山羊のチーズの季節。フランス料理店に行ったら、食後に山羊のチーズを注文するのをお忘れなく。
 

五月(皐月)

 青葉が芽吹くと、初ガツオの季節。秋の戻りガツオはあなたには脂っこすぎるので、カツオは5月のものをぜひ。土佐造りもいいけど、初カツオは寿司もいけます。
 また、5日の端午の節句は菖蒲湯の日。この日に銭湯に行けば、湯船に菖蒲が浮いています(銭湯の行事としては、もう一つ、十二月のゆず湯もお忘れなく)。
13日は神田明神祭り。17日から19日の3日間は浅草三社祭り。この二つの祭りが終わると、東京はいよいよ初夏です。
 
5月13日は神田明神祭。御輿が出るのは2年に一度。残念ながら今年は蔭祭りにあたる為、御輿は出ず、15日に例大祭が行われるだけとなります。

端午の節句のお飾りにも使う菖蒲は、アヤメや花菖蒲とは別のサトイモ科の植物。ネギとお間違いなく。

椿山荘のホタル・ナイトは、椿山荘かフォーシーズン内のレストランで食事をすれば入場無料。22時までです。

六月(水無月)

 イタリアンでは天然物のルーコラ、フレンチでは白アスパラガスがメニューを彩る季節。江戸前ならキス。昔から「6月のキスは絵に描いてでも食え」と言いいます。また、1年で15日間しか出回らない白身魚のギンポウが食べられるのも、6月。どちらも江戸前の天ぷらでどうぞ。
 それと6月の東京のもう一つのお愉しみは、椿山荘の庭のホタル。7月以降は光ファイバーを使った人工蛍になってしまうので、天然蛍を見たければ6月中に。

七月(文月)

 7月はハモとじゅん菜の季節。京料理の店へGO!  10日は、観音様の四万六千日の縁日。この日に参詣すれば、四万六千日お参りしたのと同じご利益があるという凄い日なので、とりあえずお参りを。この日と前日には、浅草寺境内に、東京の夏の風物詩、ほおずき市が立ちます。
 また、20日の海の日は、関東の花火大会の皮切りとなる横浜みなと祭国際花火大会が開催されます。東京近郊の花火は、この後、隅田川(7月末)、東京湾(8月半ば)とつづき、一番デカい土浦の大会(10月上旬)で幕を閉じます。

7月9、10日の二日間、浅草寺境内に450ものほおずき店が並ぶ「ほおずき市」は江戸時代からつづくイベント。

シンコは、初めは小さいので寿司1貫に4尾つけ、秋に近づくにつれ3尾、2尾と減ってゆきます。

八月(葉月)

 小肌の子供、シンコの季節。シンコは、柔らかな舌ざわりと、淡泊さの中に秘められた細やかな味が身上。寿司屋でこれを食べなければ、東京の夏は終わりません。
 もう一つ、この季節の意外な美食はサンマの刺身。刺身で食べるサンマは、脂の乗る9月より、8月の北海道産がベストです。

九月(長月)

 オペラのシーズンは、世界中どこでも9月の新演目に始まり、翌年6月までつづきます。あなたも、オペラ・ファンを装って9月は新国立劇場の『椿姫』へ。
 イタリーでは9月は、ポルチーニ茸の季節。網焼きでどうぞ。
 フレンチはプレサレの季節。プレサレとは、フランス北部沿岸の低湿地帯の潮風にさらされた草だけを食べて育った、潮の香りのする仔羊。9月から晩秋にかけて日本にも入ります。一度お試しを。

「椿姫」はヴェルディの最高傑作。パリの娼婦を題材にした情熱的なオペラです

十月(神無月)

 10月は新そばの季節。新そばはのどごしが命。この季節のそばは噛まずに飲み込んでください。
 甘党にとっては栗の季節。モンブランが俄然おいしくなります。
 もちろん、松茸もお忘れなく。
上海蟹は、上海近くの陽澄湖と揚子江をつなぐ「大閘」という水路に生息するカニ。中国の11月の一番の味覚です。
ヴィノ・ノヴェッロとは「ワインの新酒」の意。ヴェネト産が有名。

十一月(霜月)

 フレンチではジビエ(鹿、兎、鴨、キジ等の野生動物)が脂が乗っておいしくなる季節。シェフの腕の真価が問われるときです。中華なら、上海蟹。イタリーでは、その年の新ワイン、ヴィノノヴェーロが11月上旬に解禁。11月下旬のボジョレー・ヌーボーの解禁より、こちらの解禁にこだわった方が通っぽいかも。
 本州では、鴨猟が15日に解禁(翌年2月15日まで)。解禁日の翌日の16日は、東麻布のあか羽( 3585・3534)や浅草雷門の鷹匠・寿( 3841・4527)といった鴨料理の専門店へ。
 そして新宿花園神社の酉の市に足を運んで、日本に残る唯一の見せ物小屋を冷やかし、熊手を買えば、いよいよ年末気分です。

十二月(師走)

 12月の東京湾のハゼは、鯛や平目なんかメじゃないくらいの美味。天ぷらでどうぞ。
 寿司はサバ。鍋はアンコウかフグ(ことに白子!)が旬。
 バレエのくるみ割人形、クラシックの第九、落語の芝浜に足を運び、ゆず湯で温まって、イタリアンの白トリュフの香りに酔えば、トリュフで始まってトリュフで終わった1年の締めくくり。はい、ご苦労様でした。

チャイコフスキー三大オペラの一つ「くるみ割り人形」は、毎年クリスマス近くになると上演されるバレエ作品。
更新日2001年12月30日
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