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 日本は元々、揚げ物でも炒め物でもなく煮物文化の国。昔はどの家にも火鉢があり、その前には火の番をするおばあちゃんがいて、毎日コトコト煮物を煮ていました。実は煮物にとっては、その「コトコト」が一番肝心。里芋・大根等の根菜類は、100℃以上になると煮崩れしてしまうからです。そうした野菜を、ちくわ・はんぺん等の練り物や、こんにゃく・白滝・がんもどき等の豆腐屋ネタと一緒に煮るおでんは、コトコト系煮物の代表選手。

小平一雅  が、過去30年間で、日本の家庭からは火鉢もおばあちゃんも消え、家の煮物の味も失われてしまいました。冬は大根がおいしい季節ですから、冬の間にせめて外のおでん屋サンの大根で、日本の煮物文化を再確認されてはいかがでしょうか。
でんのルーツは、室町時代に誕生した、豆腐や芋を串に刺し、味噌をつけて焼く田楽。江戸時代以降、関東では田楽は鍋で煮られるようになり、やがて下総の野田で濃口醤油が開発されると(それ以前の醤油は、香り付けに使われる薄口オンリーでした)、他の江戸料理同様、田楽も濃口醤油で煮られるようになり、具の種類も増えて、呼び名も田楽からお田と変わります。
 一方、関西では、おでんと言うとルーツの田楽を指し、醤油で煮込むおでんは関東煮と呼びます。そして関東から伝わった関東煮は、塩味文化圏の関西では、うどんツユと同じ塩味のダシで煮る独自の味付けで発達を遂げました。

979年、セブンイレブンが店におでんを置き始めてから、おでんは若者のコンビニ食として復権を遂げますが、そのコンビニおでんも東京と大阪ではダシの味が異なり、同じ東京でも、関東発祥のセブンイレブンと関西のローソンでは味が微妙に違います(色は同じですが、セブンイレブンの方が醤油っぽい味です)。
 そして、東京のおでんは最近、関西風味に押されっ放し。西麻布交差点のお洒落おでん屋の元祖、六根や、ユニマット・グループが展開中のゆれ暖簾等、新興のおでん屋サンはみんな関西風薄味です。

らば関東の伝統的おでんはどこで味わえるかというと、ちゃんとあります、銀座のド真ん中にいい店が。有名な老舗のお多幸本店がそれ。この店のダシは、昆布と鰹節、それに醤油・酒・砂糖で作る(これはどこの店も共通ですが)濃厚な甘辛味。その色の濃さは、白い豆腐がみるみる茶色になるほどで、味は薄味に慣れたあなたなら腰を抜かすほどの強さ。が、実際のところ、作る手間は関西風よりもむしろ、こうした伝統的な関東風の方が上で、店の側は、ダシが煮詰まり過ぎないよう、昆布と鰹節だけの薄いダシ汁をこまめに足し、逆に薄まったら砂糖と醤油を足し、具もダシが濃いので煮っ放しにはできず、たとえば大根は下煮して水にさらしてダシに浸けた後、ダシから上げて表面の煮汁を染み込ませ(こうして芯を白く残したまま味を滲みさせます)、捌け具合に応じて再びダシの中に入れ、逆にタコは注文されるまでは中に入れず−味の状態を一定に保つために、絶えず細かな注意を払っています。

多幸が使っているつみれやはんぺんは、関東大震災以前の300年間、魚河岸があった日本橋で、元禄から営業をつづける神茂の製品。神茂の練り物は、普通なら煮込むのがもったいないと言われる高級品で、それを惜し気もなくまっ茶色に煮るお多幸のおでんは、ある意味豪快そのもの。

して、これはお多幸に限った話ではありませんが、おでん屋サンは閉店後に、具の味の滲み出たダシをしっかり漉してズン胴に移し、火入れして一晩置き、また翌日火入れして、使いつづけます。つまり老舗のおでん屋サンのダシには開店以来の旨味の分子が含まれているのです。お多幸が銀座に店を出したのは1951年。従ってそのダシには、50年前のアミノ酸が含まれている可能性も。老舗のおでんを食べるということは、そういうことです。

のお多幸から僅か数十歩のところに、東京随一のおでん屋と誉れの高い、1937年創業のやす幸があります。こちらの店のダシは、コップに入れたら向こうが透き通って見えるほどの薄さ。厳密に言うとこの店の味は関西風とは少し違いますが、しかし東都の街に透き通った薄味のダシを広めたのは、紛れもなくこの店。味も折り紙つきです。
 銀座っ子の間では昔から「高いやす幸、安いお多幸」と言われ、やす幸は、店構えも値段も庶民的なお多幸とは好対照。どうせなら2軒ハシゴして計114年の歴史を味わわれてはいかがでしょう。

ころで東京でもう一つ忘れてはならない重要なおでんエリアが浅草・上野界隈。関東のおでんは元々この地域で屋台の軽食として発達したもの。その一隈で1915年から営業する大多福は、長野県知事も激賞する老舗。ダシは関東風と関西風の中間で、小魚の身を擦りつぶした粉を足して団子にする自家製のつみれを初め、具は常時40種。かまぼこをあげで巻いた信田巻や、魚を骨ごとミンチにしたすじ等、東京の伝統的な具はすべて揃っています。
 この店のご主人の話では、おでんは、3品ずつ注文されるのが、一番ありがたいとのこと(1〜2品だと、ダシがどんどんなくなってしまうため)。他のおでん屋サンに行くときも頭に入れておきたい、東京のマナーです。

店名場所/TEL創業年度ダシの味営業時間/休日
お多幸本店銀座5丁目
3571・0057
1925年関東風16時半〜22時半
無休
やす幸本店銀座5丁目
3571・0621
1937年関西風16時〜23時
無休
一平本店銀座4丁目
3567・3355
1930年関西風17時〜22時半
無休
大多福台東区千束
3871・2521
1915年中間17時〜22時半
無休
多吉久台東区上野
3831・5088
1904年関東風18時〜24時
月休
呑喜文京区向丘
3811・4736
1888年関東風16時半〜22時
日休
ちょっと 廣尾店渋谷区広尾
5791・5773
2001年アジア風18時〜翌2時(要確認)
日休
六根 西麻布店港区西麻布
3405・6950
1991年関西風17時〜翌3時
無休
浅草のはずれ、言問通り沿いの『大多福』は、1915年に大阪法善寺から東京に出て来た、その名も船大工(本名です)さんが営む老舗。店構えも店内も渋さの極致で、ことに折れ曲がった長いカウンターがいい味。奥には大人数用の座敷も。昔は練炭、今はガスで、コトコトと煮るネタは40種あまり。ニューウェーブ系のおでん屋サンでは滅多に見られない、信田巻やすじ、ちくわぶ等の伝統的なネタも揃っています。

広尾『ちょっと』(・5791-5773)は、広尾商店街の片隅の古い民家を改造した今風のおでん屋。ベトナム風、カレー風など、アジアン・テイストの変わりダネおでんがウリ。

銀座『お多幸本店』は、晴海通りの裏路地に面した、超関東風味の老舗。店名は初代「太田幸さん」の名前から。東京中にある同名店はすべてこの店からの暖簾分け。

『やす幸』はおでん屋というより割烹料理店の趣きの、いかにも銀座らしい小粋な店。クラブ出勤前のお姉さんの姿もちらほら。柚子が香るアジつみれが人気です。

更新日2001年12月2日
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