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 鴨は、夏を寒帯のシベリアで、冬を温帯の日本・中国・ヨーロッパで過ごす渡り鳥。そして、温帯に渡ってしばらく経ち、体力が回復した今時分の肉が、一年で一番おいしいとされています。
 フランスでは、冬を越すために十分に餌をとって太った初冬の野生動物の肉を「ジビエ」と呼び、最高の美味に位置付けていますが、鴨は、そのジビエの代表選手。この季節、フランス料理店なら、どこの店も必ず鴨料理を一品はメニューに載せています。

小平一雅  日本でも「鴨が葱をしょって来た」というコトバがある通り、鴨と葱を一緒に煮る鴨鍋は、冬の代表的味覚とされてきました。
 今回は、日仏両国で冬の味覚の代表として愛されている鴨について考えてみることにいたしましょう。
代中国人は、春になるとシベリアに帰って行く渡り鳥の鴨を、一年中食べたい一心で、羽を切って飛べなくし、農家で育てやすくするために、巣を作らず、つがいではなく一夫多妻制で繁殖する鳥に品種改良しました。これが、ご存知「家鴨」。つまりアヒルは、家禽化した鴨なのです。
 日本料理でよく「合鴨」という言葉を聞きますが、合鴨とは本来は「野生の鴨とアヒルを掛け合わせ」の意。が、実際の話、今日、日本の料理店で出されている合鴨の大半は、アヒルの肉です。

にせよアヒルにせよ、その肉は鶏肉とは違い、色が赤く、縁に白い脂(=皮)があって、まるで豚肉のよう。その外見から想像される通り、高カロリーで味も濃厚。ことに野生の鴨は、身の色が濃く、厳しい自然界で生活している分、皮の脂は薄いのものの、香りがよく、焼いても変な煙が出ないので、焼き物向き。それに比べるとアヒルの方は、人工飼料で短期間に育てられるので、肉が柔らかくて皮が厚く(北京ダックなんか、皮の脂だけを食べてますもんね)、煮ると脂が溶け出して味が出る分、煮物向き。値段が安いのはもちろんアヒルの方で、野生の鴨の約半値と言われています。

国産のアヒルが17世紀にフランスに渡り、安くて一年中食べられるというメリットを残したまま、より野生の鴨に近い味に品種改良されたのが、フランス鴨━━トゥール・ダルジャンの番号付き鴨でおなじみのシャラン鴨が、その代表。確かにフランス鴨は、皮が薄く身の色も濃いので、アヒルよりはずっと野生の鴨に感じ。フランス人は鴨の血のソースの濃厚な味を好むため、「エトフェ」と言い、締めるときに窒息死させ、血を抜かないまま調理場に回した鴨を珍重しています。

うしたフランス料理のソースを使った濃厚な鴨も捨て難いのですが、私たち日本人の口に合うのは、シンプルな「御狩場焼き」でしょう(日本料理の鴨はソースは使わず、ただ焼くだけなので、締めた後、すばやく放血するのが一般的です)。

本の鴨は、10月の初めにシベリアから飛んで来て、4月に帰って行きます。本州で鴨猟が許されるのは、11月15日から翌年2月15日までの3ケ月間。この期間なら、撃ち落とされたばかりの新鮮な鴨を食べることが可能。何ごとにつけ旬を大切にする年配の通人は、その年の初物の鴨を求め、解禁日の翌日の11月16日に料理店に足を運んだりしています。

内庁は、埼玉の越谷と千葉の新浜に、鴨猟のための専用の御狩場を持っており、以前は、天皇陛下が毎冬、各国大使を招いてこの御狩場で鴨猟を催し、狩ったばかりの鴨をふるまっておられたりしました。残念ながら、陛下主催の鴨猟は環境問題を考慮して行なわれなくなってしまいましたが、結婚前の浩宮様が雅子様を、鴨猟解禁直後の新浜の御狩場でのデートに誘われたことで、皇室と鴨の関係は再びクローズアップされることになりました。

下が御狩場で各国大使に供されていた鴨料理は、炭をくべたコンロに小判型の鉄板を乗せ、その上で鴨肉を焼き、大根オロシとしょう油で食べるというシンプルなもの━━これが前述した鴨の「御狩場焼き」です。
東京には昔から、浅草の『寿』、東麻布の『あか羽』、東日本橋の『鳥安』等、「御狩場焼き」を食べさせる老舗がいくつかあり、ことに冬至前後の今の時期は、最も美味とされる『冬至鴨』を求める大人の客で賑わっています(『ザガット』には一軒も載っていないことからも、いかにこれらの店がクローズドな大人の店かおわかりいただけるでしょう)。

方がもっと庶民的な鴨料理をご所望なら、合鴨を使うので「御狩場焼き」よりずっと安上がりで済む「鴨鍋」はいかがでしょう? 東京の和食屋サンには、冬の間、鴨鍋を売りにする店が少なくありませんので、ごくごく一般的に楽しめます。

極の裏技として、お蕎麦屋サンを利用するテもあります。どこの蕎麦屋のメニューにも必ず載っている鴨南蛮は、昔は鶏肉が使われていましたが、それでは不当表示に当たるというので、今は必ず合鴨が使われています。昔の江戸っ子は、冬になると、この鴨南蛮からソバだけを抜いた、簡易鴨鍋(『鴨ヌキ』と言います)を、燗酒と一緒に好んで食べていたと言います。どこの蕎麦屋でも通じる技ではありませんが、一流の蕎麦屋なら、一度は試してみる価値のある裏技です。


『鳥安』(中央区東日本橋2-11-7 3862・4008)は、江戸時代は江戸随一の盛り場だった両国橋のたもとで、明治5年から営業をつづける、個室オンリーの一軒家の合鴨料理店。メニューは、皮付きのまま分厚く切った胸肉を、備長炭でジイジイ焼きながら、オロシで食べる『御狩場焼』ただ一品。ロケーションの渋さは絶品。現在の建物は1959年に建て直されたものだそうですが、店構えは明治以来の風情を守っています。

野生の鴨は頭が青いので「アオクビ」とも呼ばれ、野生であることを証明するため、頭だけは羽をむしらずに市場に流されます。値段は1羽 5,000円前後。合鴨の約2倍です。

『鷹匠・寿』は、浅草雷門前の真鴨専門店。客の前で1枚づつ丁寧に焼くため、キャパシティに限度があり、昔から一見さんはお断り。だから雑誌にも載らない幻の店。

「御狩場焼き」は、炭で熱した小判型の鉄板の上で、タレを一切使わず、鴨の脂だけで肉を焼きます。浩宮様と雅子様がデートで召し上がられた鴨もこの調理法だったはず。

『一茶庵』(千代田区神田神保町3-6-6  3239・0889)は、半透明のいわゆる「一茶庵系」の蕎麦の銘店ですが、予約すれば合鴨の鍋や陶板焼きが食べられます。

更新日2001年11月4日
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