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 フランス北部モン・サン・ミッシェル湾沿岸の海辺の低湿地帯で、潮風にさらされた草だけを食べて育った潮の香りのする仔羊の肉を、フランス人はプレ・サレと呼び、珍重しています。フランスでもなかなか手に入らないこのプレサレ、一昨年から日本でも輸入が解禁され、毎週10頭程度入って来るようになりました。本格シーズンは、これから晩秋にかけて。もしもフランス料理店のメニューで見かけたら、ぜひお試しください。

小平一雅  また、最近は、羊肉に多く含まれるカルチニンという酵素が、脂肪を燃やし体脂肪を減らす作用を持つことが知られ、羊肉は俄かに注目を集めています。 web版『東京コンシェルジュ』の第一回は、最近、味の面からも、健康の面からも見直されている羊の肉のお話です。
は国家レベルで米国から日本に輸入され、育成され、そして見捨てられた。それが羊だ。可哀そうな動物だと思わないか?」とは、村上春樹の『羊をめぐる冒険』の中の一節。そう、羊って、可哀そうな家畜なんです。
 その可哀そうな羊が初めて日本に上陸したのは、幕末も押し迫った安政年間(1850年代)。それ以前の日本人にとって羊は、十二支には入っていても、想像上の動物でしかありませんでした。
 が、大正時代になると、陸軍が、軍服を輸入品に頼ることなく国産で作る必要に迫られ、政府に働きかけて、欧米からコリデール種という日本の風土に合った綿羊を大量輸入。国を挙げて、増産を図るようになります。

れと同時に、羊毛を取った後の綿羊をなんとか食用にしようと、さまざまな料理法が考案されました。中でも、モンゴル系中華料理の鍋羊肉にヒントを得、蒙古軍の兵士のカブトで焼いたというまことしやかな由来まで考えて創出された日本独自の料理、ジンギスカン(1936年開業の元祖・成吉思荘は、長く高円寺で営業をつづけていましたが、1994年に閉店してしまいました)は、綿羊飼育が盛んだった北海道に渡って、急速に普及します。

時、日本で食用に回された羊は、さんざん羊毛を取った後のくたびれた老廃羊。その上、保存方法も輸送手段も貧弱だったため、脂肪が匂いを発しやすい羊肉は、固くて臭いという評判が定着してしまい、そのために、あらかじめ強い味のタレに漬け込んでから焼くジンギスカンが開発されたという事情があったようです。
 戦後も、日本は外貨を失なったために羊毛を国産に頼らざるを得ず、そのため、国内の綿羊飼育はますます盛んになり、1957年のピーク時には100万頭を数えるに至ります。
 ところが、1961年に羊毛輸入が自由化。もともと、日本の羊は農家の納屋で2〜3頭単位で飼われていたため、国産羊毛は品質が不安定で毛にゴミもいっぱい入っており、アッという間に輸入羊毛に駆逐されてしまいます。その結果、日本の羊は減少の一途。今では、2万頭にも満たなくなってしまいました。

ころで、一般に、羊の肉は、生後1才未満をラム、2才未満をホゲット、それ以上はマトンと呼びます。中でもラムは、柔らかくて臭いもクセもなく、欧米では古くから、最も高級な食肉として、重用されてきました。 ことに、羊料理の歴史の長いフランスでは、ラムはさらに、生後1ケ月以内の母乳しか飲んでいないアニョー・ド・レ(=乳飲み仔羊)、100日以内のアニョー・ブラン、6〜9ヶ月までのアニョー・グリの3つに細分され、特に、ピレネー産ポイヤック産の乳飲み仔羊は、春先の季節の味(羊は12月に出産するので)として、冒頭に紹介した秋のプレ・サレと並んで、食通の間では広く知られています(プレ・サレとアニョー・ド・レは、ハイソなマダムの常識としてぜひ覚えておいてください)。

日本にいる2万頭弱の羊は、もはや羊毛用としてはお役ご免になったため、食紡兼用のコリデール種ではなく、すべて、成長が早く肉の歩留まりもいいサフォーク種という食用専門種になっており、その大半は、仔羊のうちから、食用に回されています。
そんなこともあって、マトンが主流だった日本の羊肉も、近年は、ラムが当たり前になってきました。その結果、ジンギスカンも、癖のないラムで食べるようになり、あらかじめタレに漬けておいた肉を焼く『滝川式』ではなく、焼いてからちょっとタレをつける『札幌式』が普及。たとえば、1999年2月に、中目黒にオープンしたジンギスカン専門店の『まえだや』(右イラスト参照)も、オーストラリア産のフレッシュ・ラムを『札幌式』ジンギスカンで食べさせる店。ジンギスカンだけでなく、ネギ塩とか網焼きとかいったシンプルな調理法で、ラムの旨さを堪能することができます。

料理は、ヨーロッパやモンゴルだけでなく、トルコから北インドにかけての広い一帯で食文化の中に定着しており、ケバブと言われる肉の串焼きが日常食になっています。そして、世界の食が集まっている東京では、そのすべてのバリエーションを試すことができます。
この秋は、貴女も東京の街で、右図に示したような店々を回る『羊をめぐる冒険』をしてみてはいかがでしょうか?

サフォーク種
日本の羊の主流となった食用専用種。北海道焼尻島のものが有名。
コリデール種
1960年代まで、日本の羊と言えば大半はこれでした。
メリノ種
羊毛専用種。ウール・マークのCMなどでおなじみ。
グレヴァン種
フランスのプレ・サレはコレと決まっています

まえだや』(目黒区中目黒1-5-8 3716-8322 日祝休)は、かつてアパレルにお勤めだった前田ゆかりサンが99年2月に開いたジンギスカン専門店。豆腐屋サンを改装したという、街の食堂風の小綺麗な店内は、気取らずにおいしいものを食べて貰おうという雰囲気が満ちており、好感が持てます。深夜0時まで営業しているのも魅力。ジンギスカンは1人前900円から。

トプカプ』(港区北青山3-6-26 SIビルB1  3498-3510)は93年から営業している、アットホームなトルコ料理店。ハンサムなトルコ人シェフの作るケバブ料理が人気です。

』(渋谷区道玄坂2-7-5  3461-8262)は道玄坂の裏路地にひっそりと佇む、東京餃子発祥の店。じゃりん子チエで、みんなが「の餃子はうまいデ」と言っている大阪のは、この店から商標を買った知り合い筋の分家。店名の通り、2階には、ジンギスカンの原型と言われる羊肉(カオヤンロウ)の本格的なテーブルがあり、6〜8人で囲むことができます。羊は長ネギ・ニラ・もやしがついて1皿850円から。この店でジンギスカンのルーツを学ぶのも一興。

更新日2001年9月16日
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